トランスコミュニケーション

秦霊性心理研究所

所長 はたの びゃっこ


筆者はこれまで超心理学で超常現象、超能力という言葉でくくられてきたものを意識の“相互作用”、“コミュニケーション”という概念を用いて再構成を試みた。

たとえば、われわれが日常的に経験する他者との人間関係は2人以上の人々の間で交わされる働きかけ、行動の連鎖であると見なすことができる。相手の顔を見たときに交わす挨拶、友人との雑談、恋人との愛情表現も互いの言葉がけや表情、仕草、態度、行動のやりとりであり、相互作用から成り立っている。こうした相互作用の進展にともなって相手との人間関係の親密化が生じるものと考えられる。

相互作用のプロセスは、端的な行動としては対人コミュニケーションのプロセスとみなすことも可能である。対人コミュニケーションとはある個人の考えや、感情等の内面的な状態に関する情報やメッセージの伝達およびその解読のプロセスをさしている。すなわち、情報の送り手がその受け手にメッセージを何かの記号に置き換えて伝える符号化(encoding)と受け手が伝えられた記号に含まれるメッセージを読み取る解読化(decoding)が繰り返されることによって、コミュニケーションが成立する。

筆者は対人コミュニケーションの研究をベースにして、超心理学、トランスパーソナル心理学の理論や知見も取り入れながら新しいコミュニケーション概念の提案を行う。これがトランスコミュニケーション(trans-communication:TC)である。

TCとは生物の間でやりとりされる情報の同期、意識や行動の同調を表す概念であり、通常の対人コミュニケーションによる情報の同期、催眠や暗示によるトランス的な同調、気の研究で探求されている“気の同調”、テレパシーを通じたコミュニケーションなどの現象を包括的に説明する概念である。 TCは物理的次元、気の次元、超個意識次元のレベルにおいてそれぞれ生じている情報の伝達である。物理的次元においては送り手の表出する動作や表情、音声などの感覚的手がかりが刺激となり、それに注意を払った受け手の心理状態への影響が生じる。これに対し、気の次元や超個意識次元においては物理的、感覚的な刺激よりも、そこに関わる当事者の意識状態が重要な意味をもつようになってくる。 これが、いわゆる変性意識状態の問題である。自分はいったい何者だろう。こう問いかけてみると、われわれは応々にして、自分の外側の世界、つまり社会や集団の中での自分の立場や役割、他の人々との対人関係の状態などから自己を定義してしまいがちである。社会的な立場や肩書きこそが「本当の自分」だと信じてしまうのである。ところが、トランスパーソナル心理学では、それはあくまで自分の一断片に過ぎず、むしろ心の内側、奥深くにこそ本来の自分が潜んでいるのであって、一層内界に注意や関心を向け、意識を拡張することによって、初めて自分の全体像を知ることができると考える。

内界に注意を向けるということは、理性や思考力、判断力など合理的な心の機能を司っている自我の働きが弱まり、通常の意識状態から変性意識状態(altered states of consciousness: ASC)へと移行することを意味する。既に述べたように変性意識状態においては、トランスパーソナルな体験が発生しやすくなる。

これは、伝統的な精神医学の観点では一種の精神錯乱、つまり狂気の世界を体験することでもある。しかし、トランスパーソナル心理学はそのような体験のすべてを病的、破壊的なものとはみなさず、中にはむしろ自己意識の拡張が生じている可能性もあると見なし、そこに積極的、建設的な意味を見いだそうとする。これが前回の記事で述べた霊的危機の問題である。いずれにしても、変性意識状態は超個的意識の入り口といえる意識状態なのである。

ASCについてさらに詳しく述べていこう。ASCとは、通常の覚醒している意識の状態とは異なるすべての心理状態をさす言葉である。この中には、催眠によって引き起こされるトランス状態、ヨーガや座禅などの精神集中技法によって生じる瞑想状態、ガンツフェルト法水タンク法によって生じる感覚遮断状態、アルコールや薬物によって生じる銘てい状態、夢見と深い関連性があるREM睡眠状態などが含まれる。 ここではその一例として、カナダの大学で1950年代に行われた感覚遮断の実験を紹介しておこう。

カナダのマクギル大学の研究グループは、実験参加者を防音室にいれ、アイマスクと手足に厚紙できた筒をつけて、ベッドにずっと横たわってもらうという実験を行っている。食事とトイレは不自由にならないように配慮されていた。室内は薄暗く、室温や湿度はエアコンで一定に保たれていた。日当もついて、参加者は希望するなら何日間でもその部屋にいることができた。このような一見快適な環境の中で、参加者たちはいったい何を体験したのだろうか? 彼らは部屋に入ると4時間ほど眠った。眠りから覚めると退屈し始め、落ち着かなくなり、身体を動かしたり、イライラするなど情緒が不安定になった。やがて、彼らは注意を集中して考えることができなくなった。簡単な計算問題が解けなくなり、論理的な思考力が失われてしまった。このような心理状態は通常の意識的な心の働き、特に思考力、判断力などの合理性、現実性をもった心の働きが失われてしまったことを意味する。実験中に知能テストを実施したが、明らかに知能も低下していた。

それに代わって出てきたのが非現実的な体験である。参加者の80%がやがて幻覚を訴え始めた。幻覚は光の線や幾何学的模様、斑点などの単純なものから、ジャングルの中を行進する黄色のマントを被った小人が見えたという複雑なものもあった。また、自分の意識が身体から離れてしまい、外から自分の身体を眺めているように感じる体験、つまり体外離脱(OBE)を体験したものもあった。

結局、この実験に48時間以上耐えぬいたものは一人もいなかったのである。

このように、われわれは外界からの感覚刺激が遮断されてしまうと注意が内面に向かうようになり、逆に豊かなイメージやビジョンを体験するようになる。彼らの意識状態は明らかに変性意識状態に入っていたといえるだろう。変性意識状態は思考や感覚などの合理的な心の機能が失われ、逆に直感や想像などの不合理で、非現実的なイメージを伴う心の機能が強化されるような心理状態である。


 ところで、ASCの性質について、科学的な基準から見てどこまで解明されているのであろうか? 現時点で解明されているASCの生理学的特性には次のような知見がある。ASCと脳波の変化との間には一定の関係が認められている。すなわち、催眠や瞑想、自律訓練法などのトレーニングを積んだ人、感覚遮断状態にある人の脳波は、その周波数が遅くなることが見いだされている。

ちなみに、人間の脳波は、目を開けて思考活動などをしているときのβ波(14-30c/s)、目を閉じてリラックスしているときに現れやすいα波(8-13c/s)、うとうとしたり、深い安静状態のときに見られやすいθ波(4-7c/s)、深い眠りに入っているときに見られるδ波(0.5-3c/s)に分類される。

変性意識状態下では、α波やθ波が優勢になってくる。この事実は、ASCが覚醒水準の低下と精神活動の鎮静化をもたらす証拠といえる。要するに、ASCとは意識と無意識の境目の状態、半分目覚めており、半分眠っているような中間的な意識状態を意味するのである。

さらにいえば、変性意識状態においては、テレパシー、透視、予知、念力などのサイ現象も生じやすくなることが超心理学の研究で示されている。

たとえば、ホノートンをはじめとする研究者によってその再現性が認められたガンツフェルト実験では、「均質な知覚野」を誘導するために視聴覚を制限し外的な感覚刺激というノイズを断った上に、内的身体的なノイズの遮断のためにも安楽いすに座らせ、全身の力を抜いてリラックスしてもらう手続きを導入している。これにより、受信者の浮かべたイメージのなかにESP的な情報が検出されやすくなるのである。

このように、われわれ人間の意識状態は注意の焦点がどの意識のレベルに向いているかによって自覚されるものもまったく変化する。よく無意識の説明として氷山のたとえが使われる。しかし、無意識というものは固定され、不動の意識層ではなく、「水位」の変化に伴って海面上に姿をあらわす部分が相対的に変化する性質を持っている。したがって、「決して自覚することのできない心の層」ではない。トランス・コミュニケーションは当事者の意識状態(意識の水位)が深層レベルにまで下がってくることによって、より直接的な情報の同期が生じる可能性を示唆する概念である。

トランス状態の意識

トランス・コミュニケーションは、意識のさまざまレベル(チャネル)において同時進行的に情報の交換や同期が起こっていることを前提とする概念である。われわれの意識は連続して流れているのではなく、変性意識状態と通常意識状態の間を行ったり来たりしながら、断続的に外部の他者や環境と情報の送受信を異なったチャネルで行っていると考えられる。

目覚めて活動しているときの意識状態だけが意識の本流ではない。夢見ているときの意識、忘我の状態、無心の状態など、多種多様な表現の意識のレベルがあり、これらもまた意識の変容したモードである。

さて、変性意識状態のなかでも、催眠(トランス)は古くから知られており、宗教や医療の文脈の中で、これを誘発する技法も広く伝承されてきた。心理療法としての催眠療法は18世紀のメスメルの動物磁気説以来、他の心理療法に先駆けてもっとも早期から行われてきた。催眠療法は精神分析療法、自律訓練法、自己コントロール法、イメージ療法など現代のさまざまな心理療法の体系を生み出す源になっている。

メスメルが提唱した動物磁気説とは、人の症状や病気は人体内の動物磁気なるものの配分のアンバランスによるとして、これは遊星から催眠者が受けた磁気を患者に放射することによって治療することができると考えるものだった。メスメルの主張はフランス政府の調査委員会によって否定された。しかし、彼の理論には、すでに現代の催眠法の基礎となっている暗示、ラポール(治療者と患者の信頼関係、心の和合)、イメージなどの治療要因が認められている。

ところが、メスメリズムには単純に心理現象だけで説明できそうにない現象も残っていた。たとえば、催眠状態の人が知るはずのない出来事を感知したり、遠隔地にいる人に、催眠をかけることができたという報告も存在した。

催眠療法においては、その初期の段階からイメージの操作、誘導を前提として発展してきた。催眠暗示は、イメージそのものを条件づけたり、イメージを媒介として行動の条件づけを行う。たとえば、「あなたは今温かいココアを飲んでいます」という視覚的なイメージを喚起する暗示に始まって、「ココアの入ったカップを口まで運んでいます」という運動感覚イメージの暗示、「ココアの味が口いっぱいに広がります」という味覚イメージ、「ココアを飲んで身体がだんだん温まってきました」という温感イメージという具合に、次々に相手の五感に訴えるイメージを展開させていく。相手は目の前にココアのカップがあって、それをおいしそうに飲んでいる状態を生き生きとイメージしている。

暗示とは相手に対する命令や要求、教示などの意識的で自発的な反応を呼び起こすために使われる、通常のコミュニケーションとは異なったコミュニケーションのことである。暗示にかかった人は、自動的、無意識的な反応を示すようになる。最初は治療者から促された暗示でも、やがては自分の内的な世界のなかで自己暗示にかかり、目の前に別の現実が広がるようになっていく。要するに暗示とは、主に言語的刺激を用いて、相手に豊富なイメージを喚起するように誘導するトランス・コミュニケーションなのである。

こうしたイメージを媒介にしたヒーリング、セラピーの原型は、古来からの夢判断、呪術、祭祀にも看て取ることができる。瞑想、芸道にもイメージを介した心理プロセスの変容が重視される。さらに、日常生活場面においても深い会話や芸術的活動におけるイメージの役割は大きい。

心理学的にはイメージは大きく外的イメージと内的イメージとに分かれる。外的イメージとは外の環境に実在する人物、もの、出来事に関するイメージである。これに対し、内的イメージは実在しない人物、もの、出来事や未だに経験していない事柄について想像されたイメージ、及びその人の無意識の状態が反映されたイメージを含んでいる。つまり、内的心像は空想、白昼夢、夢、幻覚などから構成されていることになる。

セラピー、ヒーリング、精神修養において用いられるイメージは、言うまでもなく内的イメージの方である。

催眠療法は催眠状態の特性を利用して、その目的とするものを促進させていこうとするものである。催眠は一種の変性意識状態であり、自我の機能は催眠導入の段階で一時的に破壊されるが、トランスが確立されると、自我は再統合され新しい構造が組み直される。

催眠やトランス状態における意識の本質は「イメージ意識」である。成瀬悟策らによれば、催眠状態の深さは、このイメージ意識の非現実的側面が拡大していった程度で評価できる。

1.通常覚醒意識状態・・・知覚野+意図イメージ野
この状態では外界の知覚されたイメージ(外的イメージ)が意識の焦点にあり、知覚野と概念や観念が似通った意図イメージ野がこれに従属する形になっている。

2.催眠導入期の意識状態・・・知覚野+意図イメージ野+想像野
 ここでは意図イメージ野が意識の焦点になり、非論理性や非合理性を許容する想像野の活動が現れ始める。創作、芸術など創造的活動を行っている人の意識状態もこれに近い。 ここまでが通常意識状態で体験できるものである。

3.軽度催眠状態・・・知覚野+意図イメージ野+想像野+空想野
変性意識状態の強度が増してくる。ここでは想像野が意識の焦点になり、非現実的なイメージが自然発生的に展開する空想野が出現する。一方、知覚野は焦点からはずれ、後退していく。

4.中等度催眠状態・・・(知覚野)+意図イメージ野+想像野+空想野+仮性幻想野
 空想野がもっとも意識焦点に合う意識状態。内的イメージがはっきりしたイメージの形となってクリアに生き生きと活動する仮性幻想野が出現し始める。意識世界の非現実度は高まり、現実的な知覚野は完全に意識焦点からはずれてしまう。

5.深度催眠状態・・・(知覚野)+(意図イメージ野)+想像野+空想野+仮性幻想野
深い催眠状態では、仮性幻想野がもっとも優位になり、空想野、想像野とともに非現実、不合理の意識世界を構成する。知覚野、意図的イメージ野は活動しなくなる。この状態では完全に別のリアリティが目の前に繰り広げられている状態となる。

トランスに入っていく人が、上述のような「意識の拡大」をするという体験を蓄積すると、それぞれの意識野特有の注意の集中の仕方に習熟してくる。すなわち、トランスを会得した人は、自らの意識焦点(注意)を知覚野や仮性幻想野までのどの領域にも自由に移動できるようになる。

こうした意識の拡大がさらに進むと、各意識野に対する注意集中のむらが無くなり、いずれにも偏っていない意識の統合状態となる。これが催眠療法で理想とされる「瞑想性注意集中状態」(マインドフルネス)である。さまざまな意識の世界に自由往来する事ができるようになれば、自分の外側と内側の現実への適応が両立することになる。


言い換えれば、この状態は現実から離れたところから外側の現実を眺めると同時に、非現実、不合理な内界の「別の現実」に巻き込まれることなく非現実も受け入れるという状態である。これはトランスパーソナル心理学でいう超個的な意識の概念にも近い。


暗示の力

ところで、これまで催眠や暗示という概念によって説明されてきた現象のなかには、超常現象とのボーダーライン上に位置するものも含まれているかもしれない。心理療法家の笠原敏雄が紹介している事例に、偽薬効果によって末期ガンが消失してしまった患者の事例があげられている。(19)

偽薬効果というのは、実際には人体にまったく効能のない物質でも、それがある症状を治療する効果がある薬物だと偽って投与すると、症状が好転するばかりか、本物の薬物が示すはずの“副作用”までもが患者に生じる現象である。これは偽薬を投与された人が“自己暗示”にかかり、実際の薬物と同じような身体症状の緩和をもたらすものとして理解されている。

笠原氏の著書に引用されている事例では、余命2週間と診断された末期ガン患者がガンの特効薬として新聞で報道された新薬クレビオゼンを投与されて2、3日後に腫瘍が半分の大きさに退縮し、10日後には消滅してしまった。

ところがその2ヶ月後に新聞報道でクレビオゼンを試験的に使ったすべての治療施設がこの薬がガンには効かないという発表をしたということを知った患者が2ヶ月後、ガンが再発してもとの状態にまで悪化してしまう。

話はそこでは終わらない。この患者の主治医は一計を案じ、新聞報道を信じないように、クレビオゼンは本当は有望な薬である、明日には効果が倍加されたクレビオゼンが届くとうそをつき、実際には蒸留水の注射を始めたのである。ところが予想外なことに、この偽薬を注射された患者は最初の時よりも劇的な腫瘍の退縮が起こり、すっかり元気を回復してしまったのである。

偽薬はその後も注射されたが、2ヶ月後アメリカ医師会の最終報告が新聞で報道された。結論はクレビオゼンがガンの治療には無効であることが判明したというものであった。この報道を知った患者は2、3日後再入院し、入院から2日後に死亡してしまったのである。

さて、このようなケースは偽薬という心理的な作用、つまり思いこみや自己暗示によってガン細胞でさえも消失させる効果があることを少なくとも示している。

しかし、見方を変えるならば、患者自身のガンを治したい、生存したい、という一途な想い、つまり「想念」が自分自身の肉体の細胞を活性化させ、身体の状態を激変させたと見ることもできる。すなわち、これは自己暗示という概念でも説明できるが、「自己念力」であると表現することもできないだろうか。

ある事柄を念ずるとは、生き生きとして鮮明なイメージを浮かべたり、一意専心して没入している状態でもある。暗示も言葉をきっかけにイメージを喚起する技法であるが、念力の場合も最終的な目標をイメージとして念じることなのである。こうなると、暗示と念力の区別はきわめて曖昧になってくる。 あえて催眠・暗示と超常現象としての念力を区別するならば、前者はお互いが対面している状況で、言葉や感覚的刺激を媒介してイメージを活性化していくプロセスである。これに対し、後者は念じる対象が自分以外の相手でも、そして距離的に離れており、遮断された場所にいる相手に対しても、影響を及ぼすことができるプロセスを含んでいる。

祈祷や信仰治療、心霊(神霊)治療と呼ばれる伝統的な医療もしかりである。神や仏のイメージを浮かべ、一意専心して自分の望んでいる状態を実現するように「念じる」。祈祷師も祝詞や真言などの言語的刺激を相談者に与え、祈りを捧げることによって、イメージを喚起させ、相談者に神仏の救済力が働いていることを「暗示」する。こうしたイメージを媒介することによって、われわれは自然治癒力を揺り動かされ、癒されていくわけだ。

現代医学と伝統的霊性との間に、いったいどれほどの違いがあるのだろうか。果たして信仰治療や祈祷は、不合理であるがゆえに医学よりも劣っているといえるのだろうか。

最初は単なる思いこみや暗示かもしれないものが、だんだんリアルなイメージになって定着していくと、やがて自分自身の身体の状態さえも変化していくようになる。客観的に自分の周囲に何が現実かということが問題なのではなく、自分の内側に形成されたイメージ世界のありよう、自分が本当だと信じているものがリアリティでもあるわけだ。内側で確信を持って成立したリアリティに沿って、ある程度客観的な現実も変化していく。まさしく、「念ずれば花開く」の世界である。

「気」の同調現象

トランス・コミュニケーションにおけるもう1つの重要なコミュニケーションのチャネルは、「気」の次元での意識の同調、情報の送受信である。 元気、勇気、天気、電気という言葉があるように、昔の人は人間や自然界に目には見えないエネルギーの流れがあると素朴に考えてきた。中国では「気」の実証的な研究が行われている。人間の身体から「未知のエネルギー」である気が出入りしており、それを意志の力でコントロールするテクニックを「気功」という。気功をすることで身体の健康状態を保ったり、病気が治ったりする、というので日本でも健康法として知られるようになった。

「気」を自由に出し入れして、病気の患者の悪いところを直すことのできる人を「気功師」という。気功師を対象に行われた実験が行われるようになって、人間の身体から確かに何かのエネルギーが出ているらしいことが明らかになってきた。

① 赤外線…目には見えない電磁波の一種。電気こたつが家にある人は、こたつの中に明かりがないのに、暖かくなるのを不思議に思う人もいるだろう。それは赤外線が出ているためである。気功師の身体からもふつうの人間よりも強い赤外線が出ている。

② 光…気功師を真っ暗な部屋の中に入れて、「気」を出してもらうと、気功師の手やひたいから光が出始めることがわかっている。でも、実際には目には見えないくらい弱い光である。でも、気功の訓練を積んだ人の目には、気功師の手や身体から輝く光が出ているのが見えるようになるという。

③ 超低周波…人間の耳に聞こえる音は、1秒間に20回(20ヘルツ)から2万回(2万ヘルツ)の振動をもつ波である。気功師の身体からは1秒間に10回(10ヘルツ)くらいの振動音が出ている。つまり、人間の耳には聞こえないくらいの低い音である。

④静電気…気功師を対象にした実験では,気功師の周囲の静電場が約3・5Hzで振動しているという知見、額の院堂穴から直接的な電荷の変化が測定できたという知見がある。

⑤磁場…顧涵森の研究によれば、気功師の右手労宮穴から磁気信号が検出され,羅針盤に手を近づけると針が動くことが確かめられた。気功師の功法や体調の変化に伴い,磁気信号の曲線の形状や強度が微妙に変化したという。また、気功師の人体から通常の人体表面磁場の約100倍の郷土の磁場が計測されたという報告もある。

⑥電磁波…王修壁らは、5人の気功師と特異功能者(超能力者)の発功時に10-360メガヘルツ、すなわちFM放送やテレビの放送電波に使われる周波数あたりの電磁波を観察した。

こうしたエネルギーが「気」の正体かどうかは、まだ分かっていない。なにしろ、とても弱いエネルギーだから、それだけで他人の身体に大きな変化を与えるとは考えにくいからだ。

しかし、気の研究が進むにつれて、特異な現象が起こっていることがわかってきたのである。

気功師の「脳波」を計った実験がある。脳波というのは、われわれの大脳の活動の様子を電気の流れとしてとらえたときに出てくる信号である。われわれが考え事をしたり、リラックスしたり、眠ったりしているそのときどきで、脳波の波形が変わることがわかっている。しかし、脳波を計っただけでは、その人が何を考えているか、どんな気持ちなのか、という細かいところまではわからない。 たとえば、われわれが目を閉じてリラックスしているときにはα波という上下に大きくゆれる脳波が出ている。これに対し、目を開けてものを見たり、考え事をしているときにはβ波という小刻みに揺れる脳波が出る。

では、気功師の脳波はどうなっているのだろうか。気功師の場合、精神集中状態になると、脳全体にα波がでてくる。普通の人間の場合、たいていは脳の後ろ半分にだけα波が出てくるのである。気功師はふつうの人間よりも意識を集中させる習慣がついているためだろう。

また、気功師にイメージを浮かべてもらったり、気を出してもらうとき、β波が脳の左右に自由に移動できるという。こんなことは一般人にはできない。

さらに興味深いことに、一般人が気功師から「気」を受けているときの、2人の脳波を同時に調べてみると、気功師の脳波と気を受けている人の脳波が同調してくるのである。気功師の脳全体にα波が出ているときには、それを受けている人の脳にもα波がひろがり、気功師がβ波を出すと、それと同じ脳の部分にβ波が出てくるのである。まるで、2人の心が1つになってしまったようにも見える実験結果である。

これに加えて、動作の遠隔的対人的同調についても興味深い実験結果が報告されている。山本幹男らによれば、気功に熟達した人のペアをビルの4階と1階に隔離して、厳密な実験条件下で気の信号伝達実験を実施した。すなわち、1試行80秒間に1回の動作の送信が行われ、送り手と受け手の動作送信時刻と動作受信時刻の時間差を分析した。その結果、動作の送受信時刻が偶然以上に一致することが確認された。

さらに、山本らの別の実験では武道家同士、気功師とその弟子のペアを通常の情報伝達を遮断した部屋に別個に隔離し、さらに情報の受け手には電磁波を遮蔽したケージの中に入ってもらい実験を実施した。すなわち、1試行80秒間に1回、送信者が受信者に向けて気を出す動作または攻撃動作を行い、受信者は気または攻撃気配(殺気)を感じたときにボタンを押す動作を行った。実験の結果、受信者の脳波は気を感じてボタンを押した時刻よりも、実際に送信者によって発気や攻撃動作が行われたちょうどその時刻にα波が出現する比率が高まっており、動作と脳波の情報同期が起こっていることが示された。

2人の人間の脳波や動作が同調したり、同期しているということは、「気」という目には見えない次元において情報の同期、すなわちトランスコミュニケーションが生じている可能性を示している。人間の身体から出ている「気」は物理的次元では確かに弱いエネルギーかもしれないが、他人の状態を変える「信号」のような役割を持っているのかもしれない。

ちょうど、地球から遠く離れた宇宙空間から惑星探査機が、他の惑星の様子を写した画像データを送ってくるのと似ている。地球に届いた電波は巨大なアンテナを使わないととらえることのできないくらいに弱いものだが、この電波信号をデジタル処理することで、私たちは他の惑星の姿をはっきりした映像として見ることができる。

これと同じ理屈で、人間の場合も、互いの「気」を弱い信号として出し合っており、それが伝わることで、相手の心と同じ状態になっている瞬間があるのかもしれない。いわゆる「気が合う」という言葉は、そうした信号のやりとりがうまくいって、相手のことが好きになるという状態なのではないだろうか。 しかも、「気」の情報は電磁波を遮断した条件でも伝達されることが明らかになっている。このことから、「気」はこれまでに知られている物理的エネルギーとは異なった性質をもっているといえそうだ。ただし、「気」が超能力や超常現象と同じものかどうかについては、まだ結論めいたことがいえる段階ではない。

ここまで論じてきたことからわかるように、われわれの意識はそれぞれの身体の中に押し込められて孤立しているのではなく、目に見える物理的次元においても、目には見えない気や微細意識の次元においても、ある種のつながり(リンク)をもったネットワークになっているようである。特に微細意識次元の意識は時間や場所の制限を越えて情報の送受信をしている。たとえ、本人が自覚のない状態でも情報の伝達は起こっており、ある人間の意識が他人の意識に影響を与え、身体の状態にも変化が生じる。それが癒しの効果をもたらすこともあれば、破壊的な結果をもたらすこともある。われわれの意識はこれを情報系と見るならば、それぞれの個別の意識が相互リンクしているネットのような世界なのである。

参考文献

Bexton,W., & Scott,T.H. 1954 Effects of decreased variation in the sensory environment. Canadian Journal of Psychology,8,70-76.

小此木啓吾・成瀬悟策・福島章(共編)1990 臨床心理学大系第7巻心理療法1金子書房

笠原敏雄 1995 隠された心の力-唯物論という幻想- 春秋社

品川嘉也・河野貴美子 1993 決定版 気の科学 総合法令

Yamamoto,M., Hirasawa,M., Kawano,K., Kokubo,H., Kokado,T., Hirata,T., Yasuda,N., Furukawa,A., & Fukuda,N. 1996 An experiment on remote action against man in sense shielding condition(Part Ⅱ) . Journal of International Society of Life Information Science,14,228-248.

河野貴美子・山本幹男・小久保秀之 2000 盲検的手法による対人遠隔作用時の脳波 人体科学会第10回大会発表抄録集,26-27. 

秦霊性心理研究所

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当研究所は、霊性概念に関する東洋の叡知と西洋の心理学的アプローチを統合し、私たちの心の安寧と魂の成長に寄与する実践的方法を探求しています。意識 霊性 呪術 シャーマニズムに関する評論、および加持祈祷を通じた実践活動を展開しています。