HSPとエンパス

HSP(Highly Sensitive Person)とは、生まれつき感受性が高い人々を指します。これは、五感や感情が通常よりも強く働くことを意味します。彼らは環境の変化や刺激に対して敏感で、強い感情を持つことがあります。


この概念は、アメリカの心理学者エレイン・アーロンによって提唱されました。以下は、HSPの主な特徴です。


参考文献

Aron, E., & Aron, A. (1997). Sensory-processing sensitivity and its relation to introversion and emotionality. Journal of Personality and Social Psychology, 73, 345-368. 


 1.刺激への感受性: HSPは、五感や感情が通常よりも鋭敏であり、環境の変化や刺激に対して強い反応を示すことがあります。例えば、強い光、大きな音、強い香りなどが特に影響を与えることがあります。 


2.深い思索と処理: HSPは情報を深く処理し、物事を熟考することが得意です。彼らは環境や社会的な刺激に注意を払い、情報を繊細に解釈します。


3.感情の豊かさ: 彼らは自分の感情や他者の感情に敏感であり、豊かな感情の世界を持っています。他者の感情変化に敏感に反応し、共感することがよくあります。 


4.社交的な状況への敏感さ: 社交的な場面においては、新しい人との出会いやグループの中での交流などに対して緊張しやすい傾向があります。これは環境の変化や他者との関わりが、感受性を刺激するためです。


5.ストレスへの敏感さ: 彼らはストレスに対して敏感で、過度の刺激や圧力にさらされると、疲れやストレスを感じやすくなります。


6.細部への注意: 細かい変化やディテールに敏感であり、環境の変化や物事の微妙なニュアンスに気づきやすいです。 


7.創造性と洞察力: HSPは、感受性が高いことからくる豊かな内面を活かし、芸術的な表現力や洞察力に優れることがあります。


HSPの特徴は個人差があり、すべてのHSPがこれらの特徴を持つわけではありませんが、これらの傾向が一般的に共有されることがあります。 


 この概念をアーロンたちは心理尺度化しています。具体的な項目は以下の通りです。


一度にたくさんのことが起こるのは嫌だ

・忙しいときには、ベッドに入ったり、暗い部屋に入ったり、あるいはプライバシーがあり刺激から解放される場所など引きこもりたくなる。

・明るい光、強い匂い、粗い生地、近くのサイレンなどがとても苦手だ

・短時間でたくさんのことをしなければならないときに、取り乱すことが多い

・生活に変化があると、動揺しやすい

・大きな音や混沌とした場面など、強烈な刺激に悩まされやすい

・他人の気分に影響されやすい

・大きな音を不快に感じやすい

・ 一度にあまりにも多くのことをさせようとする人にイライラする

・周りでたくさんのことが起こると、不快に感じやすい

・仕事や課題を実行する際に競争したり観察されたりする必要がある場合、緊張して震えたりすることがあり、萎える


下記文献から翻訳

Aron, E. N. (2010). Psychotherapy and the highly sensitive person: Improving outcomes for that minority of people who are the majority of clients. New York: Routledge.


この中で、他者の感情への共感のしやすさに着目した概念としてエンパス(empath)があります。


エンパスは学術 的に定義・研究されておらず、いわゆるスピリチュアルの文脈において取り上げられることもあるものですが、他者の感情や感受性を非常に強く感じることができる人を指して用いられるのこと多い概念となります。


簡単に言えば、共感力が非常に高いということです。


また、エンパスは、他の人々の感情やエネルギーを自分のものとして感じることがあります。彼らは他者の感情に対して共感し、理解しやすい特性があります。


さらに、エンパスは、他者の感情を理解し、共感することから来る癒しの役割を果たすことがあります。


HSPが主に外部の刺激に対する感受性に焦点を当てるのに対し、エンパスは主に他者の感情に対する共感能力に焦点を当てます。ただし、両者は重なり合う部分もあり、同じ人が両方の特性を持っていることもあります。


非常に共感性が高いということは、既に述べた「慈悲」の概念とも重なる部分があるわけで、霊性の概念とも繋がってくると言えるでしょう。


ここで、エンパスに着目した日本の研究を紹介しておきます。


参考文献

串崎真志 (2022) エンパス傾向とスピリチュアリティ : 年齢別の比較 関西大学人権問題研究室紀要,84,Pp.1-10.


この論文では、エンパス傾向とスピリチュアリティ(人生の意味や命の永続性に対する認識)の関連が検討されています。


エンパス傾向を見るための心理尺度の中で、

「相手の気持ちやストレスを、知らないあいだに取り込んでいる」

「相手の気持ちやストレスの影響を、知らないあいだに受けている」

の項目を<情動吸収>と解釈しています。


そして

「相手を見るだけで、相手の気持ちがぱっとわかる」

「相手を見るだけで、相手の抱えているストレスがなんとなくわかる」

の項目が<情動直感>として解釈されました。


霊性概念については

「ふだん、人生で本当に大切なこと、すべき こと、したいことは何か、について、よく考える」

「ふだん、本当の幸せと は何なのか、について、よく考える」

「ふだん、生きることや人生に意味や 目的はあるのか、について、よく考える」

「ふだん、自分とはどのような存 在なのか、について、よく考える」

「ふだん、苦難や不安、怖れにどのよう に向き合えばよいのか、について、よく考える」

の項目が<人生の意味の希求>を表す項目とされました。


また、

「人のいのちは、姿形 を変えて永遠に存在すると思う」

「人が死んでも、自然の一部になって生き 続けることができると思う」

「人の心の中には人間を超えた『神』のような 存在が宿っていると思う」

「人は何か大きな見えない力によって『生かされ ている』という実感がある」

の項目が<自己超越傾向>として分析が行われました。


20代から50代の男女601名を対象に調査を行った結果、男女ともに、情動吸収が人生の意味に、情動直感が人生の意味と命の 永続性に相関していることが分かりました。


男性では、すべての年齢において、情動直感が人生の意 味と命の永続性と相関していました。


女性では、20代で情動吸収が人生の意味に、 30 代で情動吸収が人生の意味に、情動直感が人生の意味と命の永続性に、40代で情動直感が人生の意味と命の永続性に、50 代で情動吸収と情動直感が人生の意味と相関関係を持っていることが分かったのです。


このことから、エンパス傾向が高いほど、霊性意識も高まるということが示されていると言えるでしょう。その逆もまた真なりです。


共感性とは、他人の感情を自分のことのように感じ、共有するスキルです。共感性が高い人は、相手の感情に敏感で、人に興味があり、人との共通点をすぐに見つけることができます。


共感性が高いと、相手の気持ちや考えに寄り添った会話ができるため、コミュニケーションを円滑に行うことができます。


共感性は、他者の心理状態を正確に理解する認知的な側面と、他者の心理状態に対する情緒反応を強調する感情的な側面から構成される複合的な概念です。


共感性の一般的な用語としては、「思いやり」を意味し、人助けをするときに、助けようとする行動をとるきっかけとなる感情のことを指しているのです。


さらにこれを突き詰めていくと、霊性概念の重要な要素である慈悲の実践にも繋がります。


エンパスの概念がスピリチュアル界隈で「霊感体質」「念を受けやすい」「相手のオーラが見える」「テレパシーが使える」といった風に紹介されていることもあるのですが、いきなり霊能力や超能力の話に飛躍するのではなく、日常場面で人の痛みや苦悩が分かる人になること、そして困っている人や苦しんでいる人の気持ちをくみ取って癒やすことの出来るように、共感性を活かしていきたいものですね。


秦霊性心理研究所












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当研究所は、霊性概念に関する東洋の叡知と西洋の心理学的アプローチを統合し、私たちの心の安寧と魂の成長に寄与する実践的方法を探求しています。意識 霊性 呪術 シャーマニズムに関する評論、および加持祈祷を通じた実践活動を展開しています。