物質主義(または唯物論)は、物理的な現象や物質の存在が実在の基盤であり、精神や意識は物質の副産物であるとする哲学的立場を指します。
物質主義者は、世界の根本的な実在が物質によって構成されていると考えます。 物質主義の弊害として以下のような点が指摘されることがあります
1.精神的な側面の軽視⇒ 物質主義は精神や意識の存在を物理的な現象に還元しようとする傾向があります。このため、人間の精神的な側面や感情、思考、主観的な経験などが十分に考慮されない場合があります。
2.モノの重視⇒物質主義は物質的な所有や消費を重要視し、物質的な成功や所有物の多さを人生の価値の指標とみなす傾向があります。これが過度に強調されると、他の価値観や精神的な満足感が犠牲になる場合があります。
3.環境問題⇒物質主義が促進されると、資源の過剰消費や廃棄物の問題が顕在化し、環境への負荷が増加する可能性があります。
4.社会的な格差⇒物質主義が強調される社会では、富や資源の不平等が顕著になる場合があります。物質的な成功が重要視されるため、富の分配が不公平になることがあります。
一方で、物質主義は科学の進歩や技術の発展を促進し、物質的な繁栄をもたらす一因とも言えます。また、物質的な条件が整っていることで、人々が快適な生活を送ることができる場合もあります。
物質主義は現代社会や個人の価値観や生活様式に影響を与える重要な要素になっていることは否定でないことですが、それが行きすぎることによる弊害が取り沙汰されているのです。
次に、物質主義の対義語として精神主義をあげることができます。
これは、物質や物理的な存在よりも、精神や意識が現実の基盤であり、物理的な現象は精神的な現象の副産物であるとする哲学的立場です。
以下に、精神主義の特徴をいくつか説明します。
1.精神や意識の優位性⇒精神主義者は、物質よりも精神や意識をより重要な存在とみなします。物理的な世界は精神的な世界から派生すると考えることが一般的です。
2.主観的な経験の重視⇒精神主義は、個々の主観的な経験や感情を尊重し、これらが現実を理解する上で重要な役割を果たすと信じます。
3.霊性や宗教的な側面の強調⇒精神主義はしばしば霊性や宗教的な体験を重要視します。個人の魂や精神的な成長が重要な要素とされることがあります。
4.物理的な世界の一次性の否定⇒物理的な現象は精神的な現象に起因すると考えるため、物理的な世界が現実の基盤であるとは限らないとします。
精神主義と物質主義は、現実の本質や存在の基盤についての根本的な立場の違いを反映しています。一方が物質を重要視し、もう一方が精神や意識を重要視するという観点で対立します。それぞれの立場は、哲学や宗教、心理学などの分野で議論されています。
ここで霊性は、物質的、即物的なモノの見方をせず、個人の内面的、精神的な側面を重視する意識付けを重んじる立場になり、モノの所有に伴う豊かさよりも心の平安や精神的満足感を追求する姿勢に価値を見いだす志向性を持っています。
さて、物質的な豊かさを追求する風潮の強い社会においては、マーケティングが消費者に健康や幸福とは相反する物質主義的な価値観を採用するよう奨励しているように見える点が問題視されるようになっています。
特に問題視されるのは物質主義的な価値観が青少年の健全な発達と精神的幸福を脅かしていると言う点であり、物質主義は、不安やうつ病、アルコールや違法薬物などの中毒性物質の使用など、さまざまな精神的健康上の問題と関連していることが指摘されています。
本記事で参照した論文:Chaplin, L. N., John, D. R., Rindfleisch, A., & Froh, J. J. (2019) The impact of gratitude on adolescent materialism and generosity. The Journal of Positive Psychology, 14(4), 502–511.
https://doi.org/10.1080/17439760.2018.1497688
実際、TVやネットの広告には、唯物論的なメッセージが遍在していますし、それらを放送するために使用されるデジタル技術が広範囲にわたることを考えると、これらのメッセージを制限することは非常に困難な状況にあります。
感謝とは、他者からの親切な振る舞いや利他心から恩恵を受けている事を理解し、ありがたいと感じることです。
個人の物質主義的な価値が強まるほど感謝の気持ちは弱くなると言う研究結果がこれまでの研究で明らかにされています。
感謝の気持ちによって私たちは他人の善意に支えられていると感じ、安全性の感覚や人生の満足感が高まり、その結果、物質主義的な貪欲さが減ることになることが示唆されているのです。
逆を言えば、物質主義的な態度の持ち主は、他者に対して不寛容であり、無慈悲でもあると言うことです。
ここに紹介した研究はアメリカの青少年を対象にしたものではありますが、日本でもお金やモノを所有することが人生の目的になっていて、物質的な豊かさを追い求めるように煽る風潮が見られます。
しかし、それは結局「こころの貧困」を招くことになるのではないか、つまり飽くなき物欲、決して満たされることのない欲望、そして利己心を強めてしまい、他者に対して冷淡な社会を作ることに繋がっているのかもしれません。
秦霊性心理研究所
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